2009年度

 今年の夏は長い暑い夏となりました。50数年来続いてきた自民党政治が名実共に
崩壊し、圧倒的な民意をうけて民主党政権が誕生したのです。今回の日本における本
格的な政権交代の賛否はともかく、国民一人一人が自らの意志によって政治構造を変
えることができるのだということを実体験した意義深い夏でありました。初めて政権
を担当する民主党には多くを期待すると同時に、性急に結果を求めず、ベクトルの指
し示す方向をじっくりと見守って、あるいは監視していきたいと思います。一方で
は、自民党が活発で責任のある政権交代可能な健全野党へと生まれ変わることをここ
ろより期待しています。当初は以上のように政権交代によって日本政治の変革を期待
したのですが、2010年7月現在では国民の期待に沿った形には必ずしもなっていませ
ん。成果もさることながら、その姿勢において裏切られているという思いから国民の
失望感も大きく、そのために参議院選挙では与野党逆転の衆参ねじれとなりました。
その結果、物事を進めるには与野党のかつ議員同士の十分な話し合いが不可欠になり
ます。そうなると、ねじれはむしろいいことだとも云えるのでしょう。私たち国民も
日本政治と政治家を育てていく辛抱強さと智慧とが求められています。蟹は甲羅に似
せて穴を掘るのです。

 さて、総会ではよか薬会役員からの事業報告および会計報告などのあと、樋口駿大
学院薬学研究院長に「薬学の教育、研究の現状」についてお話をいただきました。講
演会ではよか薬会会員の影浦光義氏に「法医中毒学」のお話しをお願いしました。氏
は1964年薬品分析化学教室を卒業(第13回)、大学院修士課程を経て分析化学助手、そ
ののち福岡大学医学部法医学教室に移り、講師、助教授、教授を務め、一昨年から医
学部総合医学研究センター(法医中毒学)教授としてご活躍中です。九大時代には、影
浦氏と野球を一緒に楽しんだ方も多いと思います。氏はなかなかのサウスポーであ
り、かつスラッガーでした。

 ところで、元薬化学教室教授の酒井浄先生の主催になる「身の回りの毒に強くなる
会」というさまざまな方々をメンバーとする同好会があります。毎月いろんなお立場
の専門家をお呼びして、毒に関連したテーマによる月例の勉強会が催されています。
その例会で影浦氏のお話を聞く機会がありました。重要な示唆にとむお話しでしたの
で、あらためて影浦氏によか薬会でのご講演をお願いしました。影浦氏はお話しの骨
子を「法医中毒学とは何か、その実務(薬毒物検査・鑑定)の問題点を実例(刑事裁
判事例)とともに紹介し、冤罪根絶を目指して、「裁判員制度」の裁判員への期待を
述べる」のようにまとめられました。
 法医中毒学Forensic Toxicologyという言葉をインターネットで調べたところ、「事
故や犯罪に関わる生体試料中の化学物質の有無及び検出された化学物質の意義付けを
行う。血液・尿・各臓器などから薬毒物を化学分析により定性・定量する分析分野
と、その定量値が死因にどのような影響を与えているかを考察する中毒分野がある」
ということでした。影浦氏は、生体試料の採取方法・保管管理や、分析値の客観性・
公正性などに冤罪発生の重大な要因があり、そこを見抜く能力、すなわち薬学必須の
基本的能力である化学を基盤にした科学的思考力を有する裁判員によって冤罪発生を
根絶したい、薬学出身者はまさにそれに適している、との信念をお持ちです。このよ
うな観点から影浦氏は、長年の法医中毒学における研究と実務経験で得られた多彩な
具体例を示しながら、お考えを述べられました。

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総会写真2009

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 本年9月1日に享年89歳で逝去されました九州大学名誉教授井口定男先生のご冥福を、よ
か薬会一同こころよりお祈り申しあげます